坪井伸吾(旅人)× 伊沢正名(糞土師)
坪井伸吾さんは大学在学中のバイク日本一周旅をきっかけに、バイク世界一周、世界各地での大物釣り旅、アマゾン川イカダ下り、アメリカ大陸単独ランニング横断など、自分がやりたい冒険を次々と実現してきました。経歴だけを見ると猛者のようですが、ご本人はとてもマイペースで穏やかな人柄。そんな坪井さんの柔らかさに糞土思想を広めるための大切なヒントがある気がして、糞土師がお話を伺いました。
足るを知る
伊沢 坪井さんに初めてお会いしたのは数年前でした。ある宴席で一緒になったのですが、隣にいても圧力を全然感じなくて、その人間性に私は大きな魅力を感じたんです。
坪井 尊敬する伊沢さんにそんなふうに言っていただいて嬉しいです。
伊沢 坪井さんは、糞土思想が目指している「自然と人間の共生」についてどう思われますか?
坪井 今日は僕の希望で茨城県の伊沢さんのお宅にお邪魔しているわけですが、ここでなら自然との共生は実現できそうです。でも、都会の街の中では厳しいと思いますね。
僕はこれまで世界を旅して自然の中で生きる人々に出会いました。彼らは分をわきまえている。循環の中で生きているから、環境が壊れたら生きていけないと理解しています。
以前タンザニアのザンジバル島で、島一番の漁師の帆掛け船で漁に同行したことがあります。彼は自分が生活するために必要な量以上の魚をとらなかった。僕はもっと釣りたかったので、「もうこれで終わりなの?」と拍子抜けしました。
伊沢 「足るを知る」ということですね。
坪井 そうなんです。それはすごく重要なことで。仏教用語に「知足」という言葉が存在するように、昔からある考え方ですよね。でも実践は難しい。
伊沢 難しいというのは欲望を抑えることが、ですか?
坪井 抑えるのではなく、それで十分だとわかるのが難しい。例えばお金が欲しい人は、使いきれないほどお金があってもさらに欲しがり、それでも飽き足らずタックスヘイブンを使ったりする。
伊沢 その根底にあるものって何なんでしょう。欲ですか?
坪井 何かをするための原動力は欲ではないでしょうか。
伊沢 欲は、良いほうにも悪いほうにもはたらきますね。
坪井 欲がないと何も始まらないし、動かないんでしょうけど……。