柔らかさという強さ

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理解するよりも共有する

伊沢 まるでレベルが違う。坪井さんを見ていると、ご自身はもちろんすごいのですが、周りの人とのつながりを大事にしながら生きている印象が強いです。自分から積極的に働きかけなくても、自然に人が集まってくるのがうらやましいですね。

坪井 伊沢さんは、どういう理想を描いていらっしゃるのですか。

伊沢 私の場合、ウンコで人とつながりたいんです。皆で林のある素晴らしい環境を作って、ノグソをして、人間の連帯も作れたらいいなと思うのですが、人間社会で私は変人の部類だし、孤立感も感じているんですよね。

まだまだ自己満足で終わっているなと感じます。そうじゃなくなったらもっと楽しくなるだろうと思うんだけど、何か私にアドバイスをもらえますか? 

糞土師がノグソした場所にある目印

坪井 アドバイスというか……。伊沢さんは人を押してしまいがちと仰っていましたが、理解してもらうというより、感覚的に共有してもらったほうがいいと思います。論理的に押しても嫌われてしまうだけだから。この人の言うことなら信用できるという感じでいけば、もっとわかってもらえる素地ができるのかなって。

伊沢 今までは糞土思想を理論で固めようと努めてきましたが、それだけでは足りないと思うんです。坪井さんは人に干渉することには興味がないけれど、自分がそれは違うと思ったことに対しては躊躇なく意見されますよね。

坪井 はい。人を否定したいという気持ちはないですが、自分の世界はあります。わりとはっきりした自画像みたいなものがあって、その点に関して自分のイメージと違う部分は言います。そもそも根本のところで、僕には人に広めたいという気持ちがないので、人にアドバイスをするのは難しいです。

伊沢 その柔らかさですね。無理に押すのではなくて、ホノルルマラソンに7人付いて来ちゃったという引き込み感がいいですね。

坪井 自然との共生ではなく、人間同士の共生に関してだったら僕も話せるのかもしれません。

伊沢 坪井さんのような型にはまらない柔らかさを取り入れたいと思っているのですが、私にはまだなかなかできません。

坪井 伊沢さんは、糞土師としてずっと戦ってきたからですよね。

伊沢 そうなんです。戦うと当然敵ができるし反発もされる。そこをどうしたらいいのかなって。

坪井 僕は戦ってこなかったんで、というか戦わないようにしてきたんで。

伊沢 ははは。そこが決定的な違いですね。

坪井 でも戦わないのと、自分を曲げるのは別の問題。僕は僕であり続けるけれど、わからない人とは戦わないです。でも、わからない人の考えをできるだけ聞きたいとも思うんです。基本的に僕は自分からそんなしゃべるほうではないですから。

伊沢 初めて坪井さんにお会いしたとき、口数は少ないし、なんだこの人は!?って思ったんです。でも今日こうしてお話しをしてみると饒舌で、印象との落差が激しい。やっぱり坪井さんって面白いですね(笑)。

人と共生できなければ自然とも共生できない

伊沢 坪井さんの性格自体が幸せを作り出していると思います。私は「しあわせな死」について探究しているのですが、幸せというものについてはどうお考えですか? 

坪井 僕にとっての幸せな状態は、知らないことを知ったときです。初めて知って「そうだったんだ!」とわかった瞬間。他のものはあまりいらないです。幸せって普通の生活の中でもわりと見つけられるし、地の果てまで行く必要もない。

伊沢 そうなんですね。では、与える喜びについてはどうですか?

坪井 僕自身でいながら、人の役に立つ状態かな。普段は人の役に立っていると思えないですが、バイクのような趣味の世界なら、与える側として幸せに生きていられると感じます。

バイクで世界一周中。エジプトにて

伊沢 バイク仲間に与えることというのは、情報ですか? 

坪井 違います。情報だと最新のものでないと意味がない。今はネットで誰でもとれます。でも僕が人脈として持っている情報というのがある。例えばAさんが知りたい情報を、僕の友人のBさんに聞けばわかるから紹介してあげるとか。そういう手伝いならできるから、問い合わせが来たらありがたいなって思います。役立てている感じがある。

伊沢 坪井さんの『僕流 その日暮らし』を読んだときも思いましたが、坪井さんは人との繋がりをとても大事にして、人間関係をどんどん築いてきている。私はそこが弱くて、むしろ人間から離れて自然のほうへ行ってしまった。この歳になって人間関係をどれだけ作れるのかなあ。

坪井 僕は伊沢さんのように人や生き物を超える、全てつながる神の視点みたいなところにはいけないです。

伊沢 神ではなくてクソオヤジなんですが(笑)。

坪井 その前の前提として、人との共生ができなかったら、全ての生き物との共生なんかできないと思う。

伊沢 確かにそうです。坪井さんの人との繋がり方や柔らかさを自分も身につけていきたいと、今日つくづく思いました。貴重なお話をありがとうございました。

坪井 僕のほうこそ、今日は伊沢さんと対談させてもらえるなんて光栄でした。ありがとうございました。

(了)

(写真・構成/大西夏奈子)