柔らかさという強さ

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欲よりも面白さ

伊沢 坪井さんは、そういう欲とは違うほうへ進んでいるように見えます。

坪井 僕はあまり物が「欲しい」と思わないんです。

伊沢 坪井さんにとって、それに変わる魅力あるものとは何ですか? 

坪井 わりと感覚的に生きているので、そのとき僕にとって面白いかどうかですね。どうしても知りたい、体験したいという気持ちが強い。それが弱まったら生きていても面白くないです。だから好奇心にはブレーキをかけず全開にしています。

よく何かを達成するには、大きな目標を最初に設定して、そこから逆算して小さな目標に区切ると効率が良いと聞きます。でも僕にはそういう計画性がない。むしろ毎日が面白ければ、その延長戦上に面白い将来があるんだろうってラテン的な感覚で生きています。

伊沢 それはラテン的なんですか?

坪井 楽しい毎日の先に楽しい未来があるというのは、日本人の感覚と逆ですよね。日本では、将来安定して楽な生活ができるよう今を犠牲にして頑張る、という考え方が一般的だと思います。

伊沢 そういう楽天的な考えはどこで身についたのでしょう。

坪井 海外の旅でかなり身についたと思います。

伊沢 でも坪井さんは、子供の頃から他の子とずいぶん違っていたのではないかと思います。

坪井 そうかもしれません。何か自分が納得できないと動けない子供でした。周りから褒められても、自分がダメと思えばダメでした。

伊沢 具体例はありますか?

坪井 幼稚園の頃、先生が褒めてくれるのが嬉しくて、家で一生懸命絵を描いてました。でもどれだけ時間をかけても、親が褒めてくれても、自分で納得できないと、幼稚園に持っていけなかった。

伊沢 他には?

坪井 納得とは少し違うと思いますが、小学1年生?だったとき、担任の先生が休みで校長先生が授業に来てくれたことがありました。校長は「体重計で正しく体重が計れると思いますか?」と、今思えば不思議な質問をした。

正しいと思う人、と言うと、皆競って手を挙げた。でも僕は「違う」と思ったから、正しいと思わない人、の方に手を挙げた。するとクラス中がギョッとなって部屋が静かになった。

伊沢 そうなりますよね。

坪井 校長先生からなぜそう思うのかと問われて、僕はうまく言葉にできませんでした。すると次の瞬間、クラスの番長が「こいつアホや」と言い始め、周りも同調して、クラス全員を敵に回した(笑)。

そこで校長は助け舟を出してくれ、「君は勇気があるな」と言った。途端に教室に緊張感が走って、最初に番長が「お前すごいなあ」と味方に変わり、続いてオセロみたいに全員がひっくり返った。

伊沢 校長先生の一言が大きかったですね。

坪井 皆空気を読んでいるだけで自分で考えてない。立ち位置が危険だと感じたら、一斉に動く。そんな小さい子供でも判断の前に、数が少ない方にいるとマズイとか、学校で一番の権力者と逆の意見だとマズイ、と思うわけです。

坪井 ちなみに素早く校長の側に意見を変えた番長は、後から「オマエ、なに、いいカッコしてんのや」と、言いに来た。目立ちたい彼は、目立つ立場を横取りされたと思って怒ってるんだけど、見当違いも甚だしい。僕は校長の問いに、自分の考えを言っただけ。

そういう空気を読まないことから引き起こされるトラブルが何度もあって、意見を出すと争いに巻き込まれる。人に合わせておかないとしんどいって学んでしまった。

伊沢 日本人社会の負の一面ですね。

坪井 はい。僕はもう表面上は人に合わせるようになった。でもそうやって合わせていると、次第に自分の信じるものが何なのか分からなくなってしまう。すると自分に嘘をついているみたいで、それもイヤでした。

伊沢 それが海外へ出て行くことにもつながっているのかな。ある意味、学校ってしがらみですよね。

坪井 はい。そうだと思います。