柔らかさという強さ

「変人」が新しい世界を作る

坪井 「共生」というテーマにもつながると思いますが、「変な人」って世の中に必要だと思うんです。

伊沢 高速道路から降りたがる人とかですね(笑)。

坪井 そうです。なぜなら、その人は誰も知らない答えを知っているからです。枠の中にいる人は枠の外に興味がないから気づかない。「変な人」は大事にすべきだと思う。「変な人」に価値を見出せない世の中のほうが悪いです。

伊沢 文明に溺れている人間は脆いですよね。何かあるとすぐにトイレットペーパーの買い占めに走るみたいに。

坪井 さっきのアメリカ大陸横断中の話だと、「お前、砂漠を走って越えるなんてことが本当にできると思ってるのか?」って言う人いるんです。でも事実は圧倒的に強くて、「できるも何も、すでに越えて来たけど」と言うと、巨漢の男が突然ビビり出す。言葉遣いも急に優しくなって。

伊沢 事実には勝てませんね(笑)。 

坪井 はい。

伊沢 そういう意味では、私も糞土師として自信を持てるようになったのは、ノグソ跡掘り返し調査でウンコ分解の様子を確認してからです。でもそれを始めるきっかけは、忙しくて約束通り編集作業に入れなかった編集者の時間稼ぎだったんです。

あれがなければ『くう・ねる・のぐそ』はただ理念を語るだけの薄っぺらな本になっていました。何が幸いするかわからないですよね。私は他の人たちや運に助けられてきた人間ですが、坪井さんの場合は自らそれを生み出している。そこが負けているなあ。

坪井 別に勝ち負けでは考えていないですが……。

伊沢 負けというのは言葉の綾で、坪井さんのレベルまで行っていないなという意味です。坪井さんは他人との勝ち負けは気にされないんですか?

坪井 高校生時代にヨット競技をやっていたときは、すべて勝つための手段と考えていたこともありました。でも、あまり向いてない気がします。

伊沢 どうしてですか?

坪井 頂点に昇りつめるには色々なものを捨てて1点に絞り込まないといけない。でも僕は好きなことがたくさんあって、クラブの仲間のようにストイックになれなかった。僕は大学に入ったとき、今後やりたいことをメモ用紙に箇条書きにしたことあったんです。

その中にはバイクの中型免許を取って日本一周するって書いていて、カギカッコつきでアメリカとも書いていた。それから6年後ぐらいに自宅の本棚の隙間からその夢リストが偶然パラって落ちてきた。見たらほとんどの夢は叶ってて、ああ、できるんやねって、思った。

できないと思ったらできないし、「できません」と言っている人には絶対できないと思います。僕の旅は基本、バイク旅だったので、荷物をかついで旅した経験がない。けど、少しずつ距離を伸ばす訓練の段階をすっ飛ばしてランニングアメリカ大陸横断をやった。 

伊沢 そんな凄いこと、挑戦することすら普通は考えないと思いますが。

坪井 考えるからダメだと思うんです。こんなの毎日何キロか進んでいけば必ずゴールする。僕はそれ以前にバイクで世界一周をやってたから、それをランニングに置き換えて、できるだろうと思った。決められた時間に何キロ行かないといけない、という枠を外して継続すれば着くんです。そんなに難しく考えることではない。

伊沢 一般の人とはすでに考える段階で方向性が違いますね。

坪井 できないなんて考えたことないですよ。

伊沢 その話を聞いていると、皆夢がふくらむんじゃないでしょうか。1回経験すると、「なーんだ、できちゃうんだ」ってなりますよね。

坪井 成功するためにやるから大変なのであって、失敗してもいい。たとえば命がけの登山だったら失敗は許されない。でも僕がやっているようなことなら別に失敗しても死なない。行動するために人からお金は集めてないし、宣伝もしていない。大陸横断に関しては誰にも言っていない。見送り出迎えも誰もいなくて、勝手に黙々とやっていただけです。