柔らかさという強さ

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他人に期待しない

伊沢 それにしても、子供のときにそう思えるってすごいなあ。すでに諦観の域ですね。

坪井 そういう感覚は前からあったと思います。人にあまり期待していないし、それほど自分をわかってもらおうとも思わない。伊沢さんはいかがですか?

坪井さん(右)と弟(左)の幼少時代。大好きな犬のチャコさんと一緒に

伊沢 私の場合、高校中退したのは周りがわかってくれないからというのが一つありました。自分ではこれが正しいというのがあっても、それが周囲に伝わらないから、山に入って仙人になろうとした。ある意味、逃げですけどね。自分の生き方を求めて人間社会から飛び出そうとした。しかし坪井さんは子供のときから諦観だったようで、すごいです。 

坪井 目立つと危険みたいな感じはありました。小学校の先生が絵をすごく評価してくれたことがありました。皆が掃除しているのに「君はこの絵を描きなさい」って課題を出す。評価は嬉しいけれど、そういう特別扱いされると、後でまたもめる原因になるので嫌だった。

伊沢 でも自分を殺すわけではないんですよね。

坪井 そうです。僕はいつでも僕でした。

伊沢 私なんかストレート過ぎるからそういう技がなくて、ぶつかっちゃうのがダメなんですよね。

坪井 僕はそこまで自己主張したい意見がないんです。人の評価に合わせるより、自分のやりたいことにエネルギーを注ぐほうがいいという感じです。

伊沢 その頃のやりたいことってなんだったんですか?

坪井 当時から魚が好きで、近所の川でよく捕まえてました。川のどこに仕掛けをするかで結果が変わるのが面白くて。

伊沢 ご出身は和歌山でしたね。

坪井 そうです。川を見てどんな生き物がいるのか、どんなものを食べているか、それをとるためにどうすればいいのか、を調べる必要があります。やると色々なことが見えてきて、僕にとって魚捕り(釣り)は大きな要素ですね。

ケニヤのツルカナ湖で釣ったナイルパーチ

伊沢 釣りを通して、子供のときから自分で考えて行動していたんですね。

坪井 自分で考えないと危ういんですよ。

伊沢 何かあったときにね。

坪井 そうです。アメリカをランニングで横断したとき、カリフォルニアに砂漠があったんです。

伊沢 距離はどれくらいあったんですか? 

坪井 400キロです。真ん中にハイウエイが通っていて、道はそれしかないから特例区間として自転車通行もOKだったのですが、ランニングで行く人はいないのでその情報はない。

伊沢 道の途中には何もないんでしょう?

北米ランで通過したユタ州にて

伊沢 そこがすごいですよね。

坪井 アメリカは完全な車社会です。皆それで育ってきているから、砂漠を歩いて行けるかって聞いても、「なんでそんなことするの? 車なら半日で行けるよ」と言われるばかり。でも僕はランニングで行きたかったんです。

伊沢 アメリカ人は思考まで車社会になっているんですね。

坪井 日本と一緒で、皆その高速に乗ってスピードを競っている。でも高速があって当然という前提で考えているから大地震が来て高速が壊れたら、想定外の事態に全滅しちゃうんじゃないか、と、思いました。