「生ききりたい」(後編)

長野淳子(国語教師)× 伊沢正名(糞土師)

(写真提供/村松裕子)

前回に続き、伊沢さんは長野淳子さんと対談を進めました。

 

医療ビジネスの中にいる患者

伊沢 ところで、生きるために医療を受け続けるということは、それだけお金もかかりますよね。

淳子 それはすごく大きいと思います。

淳子さんは、昔ベトナムで買ったアオザイを自ら死装束に選んだ

伊沢 だからといって死んでくださいとは言えないから、生きることを選択するしかないし、製薬会社や医療関係者は儲かりますからね。みんなそれに引きずられちゃう。お金の力で、みんな生きるほうに引っ張られているんじゃないかなと思うんです。

亮之介 それはある……ような気がする。

淳子 もし自然に死ぬ人が多くなって患者さんの数が激減したら、医療は崩壊しちゃうわけだから。

伊沢 それと倫理観で、命が大事だと人権派が訴えるのがどうしようもなくて。

亮之介 例えばガンも、ある程度進んでしまうと抗ガン剤でも治らないと医者がはっきり言うわけだから、すると延命措置になりますよね。延命するかしないかは本当なら本人が決めるべきだけど、今はなるべく長く生きたほうがいいという風潮が全体にある。

そのためにはどんな薬を使ってでも、となりますよね。保険が効かない高額医療だと1回何百万円もする。でも生きることが一番正しいなら、高額であろうと、方法があるのにお金を惜しむのか、と。

だから医者の倫理観というものがあるとしても、プラス医療の業界とか、世間の命に対する考え方、しょうがないから生きたほうがいいんだ、という常識のようなものが固定している気がしますね。

伊沢 そうですよね。私が受けた小線源治療は放射線を完全に防護する病室が必要なんです。しかも表から針を刺すから、首から上か前立腺のガンにしか使えない。つまり患者の絶対数が少なくて病室も金がかかるのであまり儲からない。だから病院はやりたがらないんですよ。

亮之介 それは保険外なの?

伊沢 保険は使えるけど、なかなか広まらないんです。

淳子 そうなんですか。

亮之介 お医者さんも勧めないんですか?

伊沢 勧めないです。東京医科歯科大学病院でその治療法をやっていることがわかって、それまで通っていた地元の中央病院に治療法を変えたいと話したら、小線源治療で失敗した場合の話をたくさんするんです。恐怖心を与えて、なんとか手術で切るほうへ持っていこうとしている印象を受けました。

亮之介 医者ってけっこう脅すよね。

淳子 脅す、脅す。

伊沢 最新医療でがっぽり金が儲かる方法を勧めるわけでしょう。

淳子 薬代も高いですよね。だから全部がグルになっていて、保険会社も儲かるわけですよね。お金の循環の中に患者が置かれて、金づるの山みたいなものが動いていると感じます。

伊沢 そうですよね。でも患者のほうは命を握られているから、なかなか言えない。結局、医者だけでなく親戚などからもあれこれ言われるから、本人や家族は四苦八苦です。