死はなぜ怖い? 前向きな「しあわせな死」って?

延命したいか、させたいか?

伊沢 私は「延命」というのが嫌なんです。幸せではなく、むしろ不幸を広げたんじゃないかって。もちろん若いうちに亡くなるのは悔しいですよね。でもある程度年をとったり、やるだけのことをやった人なら、もういいんじゃないのかなって。

関野さんがおっしゃったように、人間以外の生き物は死をごく当たり前に受け入れていますよね。それが一番大事じゃないかと。科学、医療の進歩で人間は爆発的に増えましたが、それが不幸の根本原因ではないか?

関野 僕から会場の皆さんに質問です。病気が治らないとわかっていても、人工呼吸器や管を入れてできるだけ長生きしたいという人はどのくらいいますか?

<……手を挙げる人がいない>

関野 いないですね。逆に、愛する家族の1人がそうなったらどうですか? 少しでも長く生きてほしいからなんとかしたいと思いますか?

<……数人から挙手がある>

伊沢 それってその人の欲望じゃないですか。亡くなろうとする人の立場ではなくて、あくまで自己中心的。人間が死ななくなったからこんなことになったんだと思います。医学の進歩によってたしかに延命はできますが、かえって罪悪になってるんじゃないか。

関野 死には個人の死と別に、種の死というものがあります。恐竜が絶滅したと言いますが、地球が38億年前に誕生して以来5回の大きな絶滅期があり、ビッグ5と言われ常に種の絶滅を繰り返している。

ほとんどの種が滅びましたが、そういう危機を何回もくぐりぬけてきた奇跡的な生き物が、現存する3000万種と言われる動植物や菌類、ウイルスです。その一種が人類です。

とはいえ、ホモサピエンスも誕生してからたかだか20万〜30万年で、その最後の生き残りが私たち。人間、ホモサピエンスもそのうち終わるときが来ます。なので、人間の命は奇跡の積み重ねで生命史の中では一瞬存在して、種の寿命が来て滅びます。

伊沢 私は、人類だけが絶滅するならしょうがないと思います。でも他の生き物まで巻き添えにしているのが良くないなって。

関野 ビッグ5の最後が恐竜の絶滅したときです。現在はビッグ6です。百万種の生き物が滅んでいると言われていますが、強い動物も滅びることが特徴です。ライオン、ヒョウ、トラ、ゾウ、ゴリラ、オランウータンなど強い動物が今滅びそうです。ビッグ5までは天災でした。人類は関わっていません。

ビッグ6は全部人間の仕業です。例えばエコだと言って使っている食用油や洗剤に使われるヤシ油などは原生林を伐採して、アブラヤシのプランテーションを作り、オランウータン、ゾウその他の生き物の住処を奪っています。人間は罪を犯しているのですが、そう言いながら自分は文明の恩恵を受けて生きている。

伊沢 ノグソから始めればいいんです。解決策はこれしかないですね。

関野 ノグソをしてもオランウータンは滅びていきますよ。

伊沢 だから私は罪滅ぼしとしてやっているんです。

関野 それならさっきの免罪符と同じになっちゃいますよ(笑)。

伊沢 うーん……。確かにノグソでオランウータンは救えないけど、単なる免罪符ではなくて、実際に自然に命を返していますよ。

関野 そうですね。私にとっては、伊沢さんは師匠です。ヒトは自然なしには生きていけないが、自然は文明の恩恵を受けているヒトを必要としない。しかしノグソをすれば、少しは自然の循環の環に入れる。伊沢さんはそのことを改めて気づかせてくれました。

伊沢 私にとってみれば、関野さんは雲の上の方です。これから「しあわせな死」を探求していく上で、今日は関野さんから多くのヒントをいただきました。どうもありがとうございました。

<了>

(構成・写真/大西夏奈子)