菌類に学ぶ平和な世界(前編)

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出川洋介(菌学者)×伊沢正名(糞土師)

 糞土師の伊沢さんと気鋭の菌学者・出川洋介さんは共に、若い頃にキノコを通して今関六也(いまぜき・ろくや)先生に出会い、育てられました。偉大な菌学者というだけでなく、哲学者であり教育者でもあった故・今関六也先生の薫陶を受けたことで、両名共に今日の姿があります。

 また、博物学者的側面を持つ出川さんは、菌類全般に亘って伊沢さんが最も強く信頼を寄せている指南役です。糞土思想の土台にある菌類の魅力について、改めて出川さんにお話を伺いました。

ノグソの現場を見てもらう

伊沢 より広く深く糞土思想を広めるために、私は今「糞土塾」の開設準備を進めています。正しいノグソの実践教育のための林:プープランド(Poop Land)も合わせて整備していて、完成すれば多くの人がそこでノグソをすることになります。

 だからこそ、私がいつもノグソをしているその林の様子を出川さんに見てもらいたいんです。この環境がウンコの分解にどれくらい適しているのか、菌類研究の専門家の立場から見て、どうでしょうか?

 ちなみに、この枯れ枝のバッテンがノグソした跡です。こことそこと、あそこにも……

ノグソ跡に目印の枯れ枝をバッテンに刺しておく(割り箸は調査用)

出川 随分頻度高いですね。

伊沢 50センチから1メートルくらい間隔を空けて、あちこちでやってます。これくらいの林だと、分解力はどうですか?

出川 見た感じ水分を蓄積している感じだし、基本的にはヒノキの植林だけど、クリやコナラ、ヒサカキなどの広葉樹も入ってますね。いやー、分解は速いんじゃないですか。他の生き物もいっぱい住んでるようだし、良い林ですよ。多様性が高そうな。

伊沢 アオキもたくさん生えていて、この葉っぱはツルツルしてるので裏打ち用に使ってます。

出川 裏打ち……あっ、この上にフカフカした葉っぱを載せてお尻を拭くんですね。

 この表面にある黒い斑点はアオキ星形すす病で、植物寄生菌ですね。これはちょっと湿めり気があるような場所でないと発生しないようなので、環境指標になるかもしれません。この菌なんかが付いている方が生物多様性が豊かで、自然度が高いということが言えるかも知れない。

アオキ星形すす病の発生したアオキの葉

アオキ星形すす病菌・拡大

伊沢 このノグソ跡には8/25と書いた割り箸も立ってるけど、だから4日前のノグソです。そこには8/11、こっちのは8/18。じつは最近も野糞跡掘り返し調査をやってるんですよ。

 でね、ここに小さな穴が空いてるでしょ。この大きさだとセンチコガネだと思う。こっちの大きなのはネズミかな。この穴は、土の中のウンコを食べるために潜り込んでいった跡なんだよね。センチコガネなんてもう、ウンコしてるうちに飛んで来るから…

出川 はぁー、そうですか。臭うのかな。そいつらがかなり糞生菌を持ってくる可能性もありますね。センチコガネは糞から糞へと移動するし。そういう糞生菌を、二次糞生菌っていうんです。たとえば、ここの土を採って、そこに人糞を載せたときに出てくる菌は二次糞生菌です。つまり、伊沢さんの口から入ってきたものじゃない菌です。一次糞生菌を呼び出すには、本当は伊沢さんに土を食べてもらわないと…

糞生菌と糞虫

伊沢 そうか、直接口から自分の中に、ウンコに生える菌を取り込むわけね。

出川 そう。それでお腹の中に入って体温や酵素の刺激を受けて、糞として出てきたところで胞子が発芽するという、糞上での生活に適応しているものが一次糞生菌。それが真の糞生菌といわれるのですが…

伊沢 じゃあ、野糞跡掘り返し調査でウンコに生えたのは全部、二次糞生菌なの?

出川 そうです(伊沢さんが糞生菌の胞子が入った土なんかを食べていない限り!そういえます)。二次なんですが、ただそれも便宜的な分け方で…。

 今の話では、糞をしたとたんにセンチコガネが来ているとすると、糞から糞に来る虫が一次糞生菌の胞子を運んでいる可能性もあるので、いろんな実験をして調べてみないと…。

 例えばここの土に糞を載せて出てきた菌を調べておいて、そこに集まってくるセンチコガネとかの昆虫を一度捕まえて、それを培地の上を歩かせて、どんな菌を運んでいるかというのも調べて…。そうやっていくと、すごく面白いいろいろなことが分かってくると思うんですよね。

伊沢出川 んんん?!

野糞跡に虫がやってきた

出川 シデムシですね。死体を食べるオオヒラタシデムシの幼虫。

伊沢 そうか、これはオオヒラタシデムシの幼虫だったのか。これよく来るんだよ、ノグソ跡に。センチコガネに負けないくらいいっぱい。死体もウンコも似たようなものだからね。

出川 シデムシ類の体表にはね、ヤロウィア(Yarrowia)属っていう珍しい酵母の仲間が高い頻度で住んでいるらしくて…

伊沢 酵母が?

出川 そう、酵母。シデムシは動物の死骸から死肉団子を作ってそこに卵を生むわけですけど、団子を作るときに、おそらく体表に付いているヤロウィア属の酵母が団子の表面にもいっぱい付くんでしょうね。

 ヤロウィア属には特殊な脂肪を分解する能力があるので、離乳食というと何ですけど、脂っこいものを子どもが食べやすいように、少し分解してくれているのかもしれないんです。

伊沢 へえーーー、シデムシは酵母を使って離乳食を作ってるなんて、面白いですね。

 ん? あれなに?

出川 あ、これはオオヒラタシデムシの成虫です。

 うん? あっ、臭い! 死体とかウンコの回りを歩いているから、ちょっと臭う。

 糞虫とか死体に来るやつってのは、糞生菌にとってみれば、そういうウンコや死体のある所を効率よく行き来する乗り合いバスみたいなものなので、そうすると風任せではなく行き先が確実だから、糞生菌にとっては胞子の運び屋として最高ですよね。

伊沢 いやー、とにかく楽しいの何のって! 出川さんと一緒に現場を歩くといろんなことが見えてきて、驚きの連続です。ありがとうございました。じゃあ、そろそろ家に行きましょうか。