死はなぜ怖い? 前向きな「しあわせな死」って?

先住民も他の生き物も地下資源を使わない

伊沢 関野さんの話を聞いていて思いますが、人間って他の生き物と比べて異常ですよね。他の動物は素直に食べて死んでいくのに、なぜ人間はそれができないのか?

関野 7万年前に言語を手に入れてからでしょう。アメリカのイロコイという先住民は、何かを決定するときに7世代後の子孫のことを考えて決める。だいたい200年後ですが、人間はそうして次世代のことを考えたり、他の生き物たちのことを考えたりする。

もう一つ重要なのは、他の生き物は地下資源を使っていない。アマゾンもアンデスの人たちも、地下資源は使いません。弓矢もカゴもすべて森からとってきたもので作られています。私たちが言うゴミという感覚が彼らにはなくて、バナナの皮や焚き火の灰は森に置いておけば微生物が分解してなくなります。

だから彼らは完全に自然の循環の中に生きている。そこから外れたのが、ノグソをしない私たちですね。そうではない彼らは伊沢さんよりすごいです。生まれてからずっとノグソしかしたことない。そういう人たちが世界中にまだいるんです。

関野さんが通うアマゾンの先住民の女の子

伊沢 そうですね、敵わないです。でもそういう人たちを、我々文明人は劣っていると見下しますよね。

関野 面白いのは、彼らは他の生き物のためにやっているとか、自分たちは生物界の循環の中に生きているとは言わない。たまたまそうなってただけ。さらに言うと、人間が言う共生と、他の生き物たちがやっている共生とは、少し違うような気がします。

例えば花と昆虫。お互いに契約もしていないし、「はちみつ作ってやるよ、昆虫来いよ」っていうのでもなく、仕方ないからやっていると僕は思っています。野生の生き物は自分の身体保持と種の保存のためにエネルギーを使います。

関野 蜜を作らなくても昆虫が花粉だらけになって受粉の手助けをしてくれるなら、そのほうが楽でいいと僕は思うんですね。ハチのほうも花粉だらけにならなくても蜜をとれるなら、そのほうがいいと思う。受粉してあげようなんて思っていない。

たまたま双方にとってうまくいっちゃったから続いていて、俺とお前だけはちゃんとやろうぜ、というのが昆虫と花の関係だと思いますね。偶然うまくいったことが続いて、地球上で一番繁栄している植物が被子植物であり、一番繁栄している動物が昆虫なんですよ。これはすごいことです。

恐竜が滅びた理由は、とどめは隕石でしたが、恐竜が食べていた裸子植物にも原因があるんです。裸子植物は花粉を風で飛ばしますが、恐竜は裸子植物のために何もしていないので、共生ではなく寄生の関係なんです。

それで、南で裸子植物を食べ過ぎてしまった恐竜が、北へ移動していくうちに滅んだという説があります。だから北のほうで化石が多く見つかる。とどめはユカタン半島に落ちた巨大隕石ですけどね。

伊沢 私も自然と共生したいと思っていますが、自然のために何かできるとは思っていません。私のウンコは自分にとって何も価値がないカスで、それを素直に捨てるだけでいいんだというのを知ってほしいんです。だから共生するために思いやりを持って、自然のために何かしてやろう、というのはなくていいと思います。

そうじゃなくて、すべての生き物は自分が必要なものを食べ、不要なものを素直に捨てればいい。そうすれば他の生き物がそれを食べて生きていけますから。

しかし人間は自然を理解していないくせに頭だけ発達しすぎて、他の生き物のために何かやってやろうなどと余計なことを考えすぎている。文明社会とか科学の発達とは一体何なんでしょうね。自然からどんどん離れることばかりで。