気候変動対策の“インパクトのある言葉”を探そう

小野りりあん(気候活動家・モデル)×伊沢正名(糞土師)

勢いが止まらない気候変動。世界中でさまざまな異常気象が報告されている一方で、気候変動問題の要因は多岐にわたり、その解決策も多面的。さらに、人々に深刻な被害が及ぶまでに時間的猶予もあります。気候変動は、自分事として捉えるのが特に難しい領域かもしれません。

そんな気候変動問題を軸に活動するのが、気候活動家兼モデルの小野りりあんさん。気候変動に立ち向かうための、具体的な“言葉”はなんなのか。糞土師・伊沢正名さんとのオンライン対談で探りました。

具体的な“言葉”を探そう

伊沢 はじめまして。糞土師の伊沢です。私は毎日野糞というちょっと変なヤツですが、よろしくお願いします。

りりあん 実は私も、野糞にハマっていた時期、ありましたよ。

伊沢 え、そうなんですか? いつ頃?

りりあん 10年以上前だと思います。私は北海道で育ったんですが、ニセコの友達の家に遊び行ったことがあって。そのときに、敷地で散歩がてら野糞していました(笑)。

小野りりあん:気候変動活動家、モデル。1989年青森県生まれ、北海道育ち。2019年COP25マドリードへ飛行機に乗らずに目指す旅の実践から、気候変動情報とアクションを発信し続けている。ポッドキャスト『Emerald Practices』の共同ホストを務めるほか、2021年には気候危機対策を求める「平和的ハンガーストライキを含むアクション」を実施。https://www.instagram.com/_lillianono_/

伊沢 そうなんですね。野糞は気持ちいいでしょう! それなら今日は、話しやすいなあ(笑)。

今回りりあんさんに対談をお願いしたのは、気候変動問題に対して具体的にどう行動すればいいのか、より明確にしたいと思ったからなんです。

 というのも気候変動に関する議論は、まだまだ抽象論だと感じます。「地球温暖化は問題だ」と頭では分かっていても、一人ひとりがどう行動したら良いのか、その指針が見えない。

2022年のCOP27でも、具体的な行動指針は示されずに、途上国への支援の基金が設立されるといった“人間同士”の問題解決の話に終始していたと、不満を覚えました。

気候変動問題にも、「野糞をしよう」くらい、具体的な呼びかけの言葉を作れたらいいと考えているんです。

りりあん 確かに、「野糞をしよう」はすごくわかりやすいですね。

伊沢 そうでしょう! もう少し詳しくお話しすると、糞土思想を端的に表す言葉として、「食は権利、ウンコは責任、野糞は命の返し方」というのがあるんです。人間は自分で栄養を作り出せないから、食べることで生き物の命を奪って栄養を摂取するしかありません。その結果、出るのがウンコです。

そう考えれば、ウンコは生き物を食べた証拠であり、責任の塊。その責任の果たし方こそが、野糞なんです。

ここまで説明できれば、「ウンコをトイレに流して、その命の連鎖を断ち切ってしまうなんて何事か」と堂々と言えるし、言われた相手もなかなか反論できないですよね。生きている限り、誰でもウンコをしますから、全員が絶対に当事者なわけです。

気候変動の領域でも、これくらい強固な行動指針を提示できたら、問題を自分事にして、具体的な行動に移せる人が増えるのではないかと考えているんです。

4日間のハンストの手応え

伊沢 気候変動の問題をもっと自分事にしてもらおうと、りりあんさんも活動してきたのだと思います。どんな取り組みをしてきたのか、ぜひ教えてください。

りりあん もちろん。今は、情報の発信が中心です。具体的には、Emerald Practices(エメラルド プラクティシズ)というポッドキャストで共同ホストを務めていて、気候変動や動物の権利、政治に関連する対話を発信しています。

またClimate Dictionary(気候辞書)を作るプロジェクトも推進しています。気候変動の現状を知るには、学術的な情報にも触れる必要があるのですが、そこには難しい専門用語もたくさん出くる。そういった専門用語を誰でも理解できるよう辞書を作り、Instagramでわかりやすく解説しています。

伊沢 なるほど、面白い取り組みですね。これまで、特に手応えを感じた活動はありましたか?

りりあん 2021年の4月のハンガーストライキ(ハンスト)かな。2030年までに日本政府の温室効果ガス削減目標(NDC)を60%以上に引き上げることと、脱原発・石炭に向けたアクションを求めて、塩と水だけで4日間過ごすというストライキを起こしました。

特に嬉しかったのは、最終日に600人もの人が一緒にハンストに参加してくれたこと。さらに、このストをきっかけに就職先を変えたとか、気候変動に対する活動に参加するようになったという声もたくさん届きました。

一方で、当初の目標だった温室効果ガスの削減目標の変更や、脱原発・石炭に関するアクションに関してはインパクトを残すことができず、そこは悔しい思いをしました。

伊沢 それにしても600人も集まったとは、すごいですね。集まった人は、どんな点に共感してくれたんでしょう?

りりあん 体を張って表現したのが、強力なメッセージになったのかもしれません。

「食べるという根源的な欲求を絶ってまで、この人たちは何を伝えたいんだろう?」と、行動自体にまずは興味を持ってもらえた。その上で、訴えたい中身にまで関心を持ってくれる人が出てきて、共感につながったんだと思います。

伊沢 人の興味を引くには、インパクトが重要というのは、よくわかります。私も実は、「たった一回の野糞のために、マチュピチュを棒に振る」なんてキャッチコピーを持っているんです(笑)。

マチュピチュを目当てにペルーまではるばる行ったのに、マチュピチュで野糞をして、もし見つかったらとんでもないことになるなと思って、その直前にツアーをキャンセルしてしまったんです。その話をすると、みんな私がどれほど切実な思いで野糞に取り組んでいるのかが分かって、驚くと共に興味を持ってくれます。

りりあん それは確かに、すごいインパクト(笑)。

気候変動問題への難しさ

伊沢 一方で「ハンストをする」ことが、気候変動問題に直接影響を与えるわけではないですよね。気候変動そのものに対して、良いインパクトを与えられる行動・メッセージを提示できれば、より良いと思うのです。

りりあん それはわかります。ただ、これは私もずっと悩んできたことでもあるんですが……。気候変動問題には、本当に複雑な要因が絡まっているんですよね。

温室効果ガスの排出と一言で言っても、その要因は、発電や家畜、乗り物による移動など非常に幅広く、さまざまな社会問題とも絡み合っています。さらに、被害がより甚大になるのは未来の話だから、異常事態が起きている実感もわきづらい。

伊沢 確かに、自分事にしてもらうのが特に難しい領域ではありますね。未来の話だから、興味を持ち続けてもらうのも難しい。

りりあん そうなんです。ハンストに関しては、「大きなインパクトを生み出せた」という意味では成功例なのですが、一過性のイベントで終わってしまった反省もあります。一時的な盛り上がりを持続させる方法が、わからなかったんですよね。

 2019年には、極力飛行機を使わない方法で、世界中の気候変動の活動家に会いに行くプロジェクトも実施しました。当時COP25が開催されていたスペイン・マドリードを含めた10カ国を訪れ、成功事例を持つ活動家たちが、各々の国での運動をどう構築しているのかを勉強させてもらいました。

シベリア鉄道の車両内で。

その頃は活動家たちも生き生きと活動していた印象を受けましたが、2022年にイギリスに3ヶ月滞在して、現地の活動家たちから学んでいた時は、活動家がみんな曇った顔をしていて。

イギリスでは、国民の環境への意識はすごく高いものの、2021年の発電電力量に占める化石エネルギーの割合はいまだに約45%(出典:GOV. UK, Department for Business, Energy & Industrial Strategy, UK Energy in Brief 2022)。問題を解決できるほどに、政治の意思決定に民意が十分に反映されていないという壁にぶち当たっていました。

活動家の中には、一連の活動によって逮捕された経験がある人すらいます。それほどの犠牲を払って努力してきた人たちでも、自分たちの活動が十分な成果を出せているとは、実感できていない。

そんな現実を目の当たりにした上で、これまでの活動を振り返り、最近は燃え尽き症候群のような状態になってしまって。この数年間、夢中で取り組んできたけれど、「ここまでやっても、状況は悪化しており、必要なレベルでの変化は起こせていない」と、無力感を感じてしまいます。

本音を言えば、「戦うのはやめて、自然がきれいな場所でのんびり暮らしたいなあ」って気持ち(笑)。今は、パワーを充電する期間ですね。

イギリス滞在時のデモの様子。

田舎に住むのはどう?

伊沢 なるほど……。りりあんさんの葛藤がよくわかりました。一方で、みんなが自分事にできないからといって、「もう手遅れでした」となるわけにはいきません。やはり、何か突破口を見出したいですよね。

りりあん 一つの考え方として、すべての人が気候変動に興味を持たなくてもいいのかもしれないと思っています。CO2排出量の約50%は、富裕層のトップ10%が排出しているとの調査もあります(出典:「Confronting Carbon Inequality」Oxfam, Stockholm Environment Institute)。一般市民がいくら節電を頑張っても、その構造はなかなか変わらない。

だからこそ、やはり企業や国の意識を変えることが欠かせません。そう考えると、民主主義の意識を高めることは、長い目で見れば大きな効果を生むのではないかと。政治的な活動をする人が増え、社会問題に関する議論がより活発に議会でなされるようになれば、気候変動問題も自ずと議論される。結果的に、企業や国の姿勢にも、メスが入りやすくなるのではないでしょうか。

伊沢 確かに大事な視点ですね。一方で、私は一部の権力者や金持ちだけではなく、一人ひとりの個人が加害者だという意識も持っています。私たちは化学製品を使っては捨てているし、エネルギーを生活の中でたくさん消費している点では、共犯者。だから、一人ひとりの意識を変える具体的な行動は、やはり必要ではないですか?

りりあん そうですね。具体的な行動としては、菜食を推進するのは、わかりやすい行動かもしれません。家畜がメタンを出したり、家畜を育てるために森林が伐採されたりという背景を考えると、肉を食べないことで地球温暖化の速度を緩める一助になります。

海面上昇で沈むと言われているツバルを訪問した際の写真。

伊沢 確かに。それを「肉を我慢しろ」と伝えるのではなく、「野菜ってこんなおいしいんだよ」と前向きに発信できたらいいですよね。今はビーガンフードの値段が高いことも、難点だと思っています。美味しい野菜を、自分で作れるのが一番。

そういうところも含めて、私はもっと多くの人が田舎に住めばいいんじゃないかと思うんですよ。私は茨城の田舎に住んでいますが、近くに林があるから野糞できるし、庭に多くの緑があるから、夏でもそんなに暑くないんですよ。

それが都会のマンションだったら、暑いからエアコンをガンガン効かせて、当たり前のように温室効果ガスを排出して暮らすことになる。気候変動の進行は、みんなが都市に集中していることが大きな要因の一つなんじゃないかと。

りりあん 私も実は、地元の北海道に最近戻ってきたんです。北海道の自然が、自分の肌に合うなあと思って。

伊沢 それはいいですね! 気候変動を自分事にしづらい理由も、もしかしたら都市生活の中にたくさん逃げ場があるからかもしれません。みんな、夏の気温が年々暑くなっていることには、気づいていると思うんです。でもエアコンをつければ凌げるから、みんなで見て見ぬふりをしている。

不便さを楽しむ

りりあん でも、自分が心地よいコミュニティは東京にあるから、そこは悩ましいところ。北海道の自然や環境は好きだけど、自分と価値観の合う友達は東京にいる。正直さみしい気持ちもあります。

もう一つ具体的な行動指針として思いつくのは、「もったいない精神」ですね。都会で暮らしながらも、“足るを知る”生活をする術はありますよね。私の母も、「もったいない」といって新しい服やモノも全然買わないんですよ。

伊沢 「もったいない」は本当に良い言葉ですよね。私の暮らしも、もったいない精神で成り立っています。

たとえば水道は自家水道で、電源を入れない限り水が出ません。でも、電源を入れるのは1日に2、3回程度。水を汲み置きしておいて、その水を使って手を洗ったり、皿を洗ったりします。

もちろん不便ではあるんですが、自分の力で生きている感覚が出てきて、むしろ楽しいんです。電気に頼らず、いざというときも生き抜けるぞ、という自信にもつながります。

実際東日本大震災では電気や水道が何日も止まり、トイレが流せずにみんな苦労していたのに、私は紙も使わない葉っぱ野糞だからいつもと全然変わらずに過ごせたんです。だから私が2021年から始めた糞土塾では、こんな風にエアコンもない“不便な”環境をあえて提供して、自然の中で工夫しながら、豊かに暮らす楽しさを伝えていきたいと思っているんです。

りりあんさんは、今は充電中というお話もありましたが、今後やっていきたいことがあればぜひ教えてください。

りりあん これからは、日本にマッチした気候変動の運動をデザインしたいと考えています。一時的な運動の盛り上がりを継続する方法を模索して、日本のみんなの価値観や行動を変えられる流れを作りたい。その研究のためのチーム作りや資金集めなどが、目下の活動予定です。

ですが、短期的に何かを成し遂げようというよりは、長期的に取り組むつもり。自分自身の健康も意識しながら、しっかり腰を据えて取り組みたいです。

オンライン対談の様子。りりあんさん(左)の友人、りささんも一緒に。今回は初めてオンラインでの対談になりました。

伊沢 いいと思います。糞土思想も、出来上がるまでには何十年と時間がかかりました。思いつきで、何か名案が浮かんですぐに解決できるような話ではないですからね。さらに、長年の経験があるからこそ、今自信を持っていろんな主張ができています。だから「もっと早くから糞土師を始めればよかった」といったことは、一切思いません。

時間をかけたからこそ私も自信が持てたし、今となっては批判や反論すら楽しめるところまで来てしまいました(笑)。りりあんさんも、時間はかかっても、一緒に取り組み続けましょう。今日はありがとうございました。

<了>

(執筆:金井明日香 写真はりりあんさんからの提供)