「生ききりたい」(後編)

田部井淳子さんのテレビ番組で感じたこと

淳子 先日、友人の映像ディレクターが作った田部井淳子さんの番組が放送されたんです。人生のしまい方というテーマで。田部井さんは女性初のエベレスト登頂者ですごくポジティブに生きてこられて、自分の生き方を完結しようという番組だったんです。

それで福島で被災した高校生が富士山に登頂することを応援する活動をされていて、田部井さんご自身もガンなのですが、その活動をやるために無理もされて頑張っていらっしゃった。

田部井さんには、こうであらねばならぬ自分というものがあって、もちろんすごく能力があってそういう生き方をずっとされてきて、「自分は病気だけど病人にはならない」というのが彼女の言葉らしいんですね。

弱い自分を見せずに常に明るくて、嵐の中でも高校生たちを励ましながら富士山を登るという映像が流れていて、彼女はとても立派だったという番組でした。それは素晴らしいし私は否定もしないけど、もう少し彼女の内面みたいなものに触れた番組も見たかったなと、個人的な感想を持ったんですよ。

伊沢 ちょっと男っぽい番組になっている感じですね。

淳子 力業で最期まで生きるということが、いろんな考え方があるんだろうけども、それぞれなんだなあと思います。

亮之介さんが2010年にポレポレ東中野で初個展を開いたとき

伊沢 どれが正しいというのではなくて、人それぞれ好きな生き方をすればいいけれど。でも私が淳子さんの「生ききりたい」を読んで、そしてこうして話ができて、男である自分に一番欠けていたものが見えてきて楽になりました。

特に男は自分の生き方を持っていれば持っているほど、それを自分でも押し通そうとするし、人にも押しつけようとするよね。だから淳子さんとお話しさせていただけて嬉しかったです。今日は本当にありがとうございました。

淳子 こちらこそ、どうもありがとうございました。

亡くなる2ヶ月前の桜の季節。自宅前で(写真提供/村松裕子)

<了>

(写真提供/長野亮之介、構成/大西夏奈子)