ベジタリアンと縄文人の平和な生き方とは?

縄文人とベジタリアンの共通点

伊沢 安田さんは縄文時代を理想とされているそうですが、縄文人とベジタリアンには共通点がいくつもあるとか?

安田 環境問題、男女問題、平和主義などですね。カロリーのことで言えば、縄文人は肉も食べていましたが量は多くなく、植物や木の実のカロリー比重のほうが高かった。僕の定義のベジタリアンも、それと似ています。

要するに工場畜産のシステムが環境破壊的なんですよ。牛の放牧と鶏の餌の大豆栽培のために、アマゾン熱帯雨林を伐採して、水やエネルギーを大量に使って地球を汚染している。自然からもらえるものだけもらっていた縄文人とは大違いですね。

伊沢 縄文時代は栽培力がなかったことが幸いしていました。動物と同じ立場でいられた。

安田 食べるのは権利だけど、ベジタリアンとしては、凄まじく自然破壊してまで食べていいのかと思うわけです。あと貝塚からは動物の骨や貝殻と一緒に人骨も出土していて、ゴミ捨て場ではなく、お墓なんです。

このことからわかるのは、縄文人は動物や生き物に対して平等思想があって感謝をして食べていたということです。ベジタリアンが肉を食べないというのはそういう意味で、人間だけが優越していて何を食べてもいいというものでもないし。

人間同士の差別や抑圧に反対するところも縄文人と共通していると思います。それからジェンダー問題でいうと、縄文社会は女性上位でした。「神様の絵を描いて」と言ったら、現代人は男性を描きますが、縄文人だったら女性を描きます。

伊沢 土偶も女性ですね?

遮光器土偶(画/安田陽介)

安田 そうですね。今までは動物を狩ることに重きを置いて考えられていて、原始時代には男性の労働が社会を支えていると考えられていました。でも圧倒的に木の実などの植物がカロリーベースでは高かったんです。植物採集は女性の仕事です。

伊沢 男は種つけくらいでね。

安田 女性が社会をしきっていて崇められていたんですよ。ベジタリアンと女性には深い関係があります。ヨーロッパで第一次世界大戦があったときに、肉は戦場の兵士に向けられるようになって、銃後に残っていた女性たちの間でベジタリアンが広がったんです。

それに、ヨーロッパでは肉と女性というのが同一視されていて、比喩的に「女性をハンティングする」という言い方もありますよね。女性からすれば自分たちが被害にあう立場なので、人間に食べられる動物に共感するんですよ。女性が性暴力に反発してベジタリアンになる場合もある。

男性がしきっている社会というのは、命を殺し、動物をとって戦争もして、力の論理で動く。それに反発して、平等や弱者への思いやりとかを重視するのがベジタリアン。最初は女性がそういうことを言いだしたんです。

伊沢 へー、そうだったんですか。たしかに男社会っていろいろ問題があると私も常々思っています。最近の#Me too運動とかフラワーデモとか見ていて、世の中良い方向へ向かうかなと期待しているんだけど。

微笑むお化粧土偶(画/安田陽介)

安田 文化人類学的にみると、男が動物を狩ってきて自分たちで食べて、女性には恩恵的に食べさせてやるという感じです。「その代わり俺の言うことを聞け」と、肉が力の象徴なんですよ。女性は恵んでもらうように食べる。これは19、20世紀ぐらいまでの話ですが、もしかしたら今もあるかもしれない。

だからベジタリアンの理想は、抑圧や差別や戦争などの悪事に反対することです。それを実践していたのが縄文人。江戸時代もほぼベジタリアンですよね、魚は食べていたけど。

伊沢 獣はあまり食べていなかったですね。

安田 でも今の話と矛盾しますが、ベジタリアンが大多数だった江戸時代は、動物を屠ったり死体処理をする人たちに対して、差別をしていたでしょう。だからベジタリアンは平等主義だというのは半分嘘ですね。ベジタリアンこそがむごい差別をしていた。

伊沢 平和主義についてはどうですか?

安田 縄文人は数世帯で一緒に暮らしていたので、摩擦が起こらなかったし、戦争もなかった。

伊沢 当時はそれだけの食料がなかった。でも弥生時代から農耕が始まりました。

安田 農耕によって、2つのことが始まったんですよ。ひとつは身分差別、もうひとつは戦争です。縄文時代は食料などの取り合いもなければ、平等で良い時代でした。

伊沢 縄文時代ってどのぐらい続いたんですか?

安田 ざっと1万年以上です。でも弥生から現代まではまだ2千年ちょっとしか経っていないんです。つまり、人類誕生以来、戦争や差別をする時代のほうが短くて、していなかったときのほうが圧倒的に長い。そちらのほうが本来のありかたなんですよね。

伊沢 そうですね、生き物として。

安田 歴史的に見ればむしろ今が異常な時代です。

伊沢 でも現代人は今が標準なんですよね。

安田 そう。そこを僕もひっくり返したいですね。