糞土師&トビ座の「中卒トリオ」が底辺から仰ぎ見る、この楽しき世界!

本来の「芸能」とは?

伊沢 どんな演劇でも、観客が派手な演出などに目を奪われてしまって、劇の本質的なメッセージに気づかないことがあると思う。でもあれだけウンコ、ウンコと言ってたらね(笑)。楽市楽座にもトビ座にも、演劇の世界を本来の形へ引っ張っていくような存在になってほしいなあ。

 芸能とはそもそも何だったのかというのは、ずっと考えていきたいです。

伊沢 本来、社会への批判を笑いに変えて表現するのが芸だと思う。でも今の芸って権力への批判がなくなって、上っ面だけの華やかさや楽しさに流れている印象がある。それがすごく嫌なんだ。日本では映画でも何でも政治に触れるなという風潮があるけれど、むしろその逆であるべきだと思う。

そういう意味では、萌ちゃんのお母さんが書いた本『宝の島に会いたくて』を読んで、楽市楽座は本物の芸人だなと思った。反原発のことなんかも芝居に入れていて。その流れを汲んで今回2人でやっているわけだよね。

 誰の言葉だったか忘れてしまったんですが、「芸人や芝居役者は民衆と同じ底辺の立場にいなければならない」と言っている人がいました。

伊沢 底辺にいるから抑圧されているわけで、それに対する反発だよね。苦しめられている民衆に代わって、上を批判して社会をもっと良くしていこうとする。そういう本来の目的から今の芸能は外れていると思う。私はそういうのをやっつけたくてウンコで闘っているけど、それを演劇の世界でやっている正統派に出会ったと思っています。

 

芝居は体の底からわき出る生モノ           

 ーー佑之助さんはデビューして1年です。芝居をやってみてどうですか?

佑之助 初舞台は反原発の紙芝居で、屋内で一方向に向けて演じたのですが、その後に野外で芝居したら全然違う感覚があって、とても面白いと思いました。

道具もあるけれど体の底から出る生ものだから、芝居という表現法はシンプルですごいなと思ったんです。歌も歌うし体も動かすし、それがきつくもあるけれど楽しいです。

 佑之助は農業などもしてきましたが、私は経験がないので、今後は芝居と農業という交わりもやってみたいです。 

佑之助 楽市楽座の劇の多くが小さな生き物たちの物語です。農業を通じて、実際に自分たちが生き物を見て感じたことを芝居にしたら、一番伝えやすいかもしれないなと思っていて。

 佑之助は無農薬の農業をやりながら色々な生き物を見ているから、その美しさを知っている。

佑之助 畑で芝居をしたらリアルでいいんじゃないかと思うんです。

伊沢 いいねえ。

 いつかやりたいですね。自分たちの生活から生まれるのが理想的だから。昔の神楽などがそうだったように。

伊沢 そもそも芸能は生活の中から生まれたんだよね。私だって糞土師として自信を持てるようになったのは、実際に掘り返してノグソの追跡をして、臭いも嗅いで味見もしたから信念を持てたんだ。

単に頭の中だけの屁理屈じゃない。それがあるかないかで全然違う。そういう意味で、佑之助君が入って「農」が加わったのは楽市楽座にとっても大きな収穫だよね。