最期は獣に食べられたい(後編)

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死期について

伊沢 私はここで野垂れ死にしたいという場所をひとつ、山の中に見つけてあるんです。人が通らないところでね。

服部 そうなんですか。廃村で生活していると、こうなったら人は死ぬんだなというのが、なんとなく分かりますよ。

伊沢 どんなことですか?

服部 たとえば薪がなくなって、外に取りに行かなくてはならないけど、天気が悪かったり、寒かったりしたら面倒だから後回しにする。すると煮炊きもできないからゴハンもちょっと後回しにして……。そういう負の連鎖に入るといつの間にか体が衰弱して動かなくなるという感じです。薪と食べ物を自己調達するのが面倒になったら死ぬ時だなと思います。

伊沢 たしかに生きるための活動を止めれば死はやって来ますが、面倒というのは寒いからですか?

服部 たとえば雪山で吹雪の日にテントに入っていると、寒くて出たくないけれど今出て雪かきしないと死ぬという葛藤がある。面倒という思いが生きなきゃという思いに勝って一線を越えてしまうと、もう落ちていくしかなくなる。そんな感じじゃないかなと思います。

伊沢 私の場合は体力が落ちたりしてこれ以上ノグソができなくなって、命を返せなくなった時が人生の終い時だと考えています。  

服部 自分自身がクソになるっていう。

伊沢 まさに糞死ですよ。

服部 ああ、いいですね。

 

生きることとは薪を割ること

伊沢 服部さんの生きる基準は、自分で食べ物や薪を得られるかどうかなんですね。そういう意味では、服部さんと私は一見反対の方向を向いていますが、最後は同じところに行き着くのだと感じます。それが命の真理、自然の真理じゃないかなと思う。命の循環や自然との共生に逆らっているのが現代人ですよね。自然の法則と違うことをやるからおかしくなっちゃう。基本は自然なんですよね。

服部 薪が面倒だからガスにして、食べ物を獲るのが面倒だからスーパーに買いにいく。そういう生き方をしていると、自分がなぜ生きているのかわからなくなっちゃう。あれもこれも面倒臭がっていたら、そのうち呼吸をするのも面倒ってことになる。

伊沢 そうなったら死んじゃいます。

服部 呼吸を止めたら苦しいから、みんな呼吸は続ける。生きるための活動である薪を拾ったり飯を作ったり、ということを呼吸と同じように続けるのが、生きることではないかなと。それが楽しめないなら生きる意味がない。わざわざマンションに住んで、それらのことをしないで余った時間や労力を人は何に使っているのかな。

伊沢 ゲームとか(笑)。

服部 (笑)。もちろん仕事に時間や労力を注いで、金を稼いでいるのはあるんでしょうが、稼いだ金でまた食べ物を買うとすれば、その循環というのは一体何を追って、どこに向かっているんですかね。都市生活は「息苦しい」。さわやかな呼吸的な生活をしたい。

伊沢 そうですね、みんな悪循環に陥っている。そしてノグソは気持ちのよい深呼吸です。

服部 そうです。お金を稼ぐことではなく、生きることに直接関わる労働を積み重ねていって、それができなくなったら死ぬ。

伊沢 すごくシンプルですね。しかもその労働に喜びを見出している。そこが大事だよね。

服部 そうそう。

伊沢 辛い気持ちで労働をするんじゃなくて、生きるための労働が楽しいんだという。例えば私の毎日のノグソは、時間も手間もかかって汗びっしょりになる立派な労働だけれども、本当に喜びそのものですよ。

服部 そう考えながらもどこかで効率を求めている自分もいたりして、「なんで俺は今効率を求めているんだ」って自問自答して矛盾を感じることもあります。昔はみんな生きるための直接の労働に追われて生きていて、それから逃れるために社会システムを変えていった結果、今の社会になった。そして俺みたいなのがまたそっちへ戻っていったりとか、一体何やってるんですかね。

伊沢 でも服部さんの本の読者は、そういう方向性を求めている人たちなのではないでしょうか。

服部 どうでしょうね、本当にやる人はいないですよ。いや、そんなことないか。原発事故以来、狩猟者が増えましたし。

鹿の皮を利用したいという知人に渡しているが、今年はコロナの影響で回収されなかった

伊沢 そうですよね。でももっと増えるかと思いました。

服部 今回のコロナもそうですが、喉元過ぎれば人間は全部忘れるから

伊沢 そのとおりですね。服部さんは一生懸命考えてここまでやってこられているし、私と道は違っても、目的としている最終地点は同じなのかなと、今日、話していてつくづく思いました。

服部 俺はあまり他人に期待しないので、伊沢さんが他人にまだ期待しているという点がすごいなというか、見習う必要があるのかなって思ったりしました。でもやっぱり……。

伊沢 夢を見るのは楽しくないですか?

服部 俺は直接的には人の考えを変えられないだろうと思っているから。でも気がついたら影響を与えているということはあるかもしれませんね。

伊沢 服部さんの場合、読者が刺激を受けて真似したくなるということがあるんじゃないでしょうか。

服部 そこを意図してサービスしてもしょうがないですから、まあ、自分の好きなことをぼちぼちやります。

伊沢 背中で見せているという感じで、そういう広め方もあるのだなと、私にとっては勉強になりました。またぜひ服部さんとお話しさせていただきたいです。今日はどうもありがとうございました。

<了>

(撮影/藤啓介、構成/大西夏奈子)