火星移住はできないと思ったほうがいい?
――人間が行ける距離で、鉄の惑星は他になさそうですよね。火星移住計画は無理という結論になりますか?
関野 うーん、でもホーキング博士は真面目に移住計画を唱えていましたね。このままだと地球人口が増えすぎて食料が足りなくなるからと。しかし実現するためには、他の生き物や酸素や水など多くのものが必要になる。
伊沢 火星全体を地球化することは無理ですよね。だからこそ、人口を減らすための「しあわせな死」が必要だと私は考えているんです。
――「地球永住計画」第1回目のゲストは村上祐資さんでしたね。
関野 村上さんは極地建築家で、南極越冬隊に参加し、火星移住の模擬ミッションとしてアリゾナや北極での火星基地居住実験に参加した、極地における人間の暮らしを踏査してきた方です。
火星移住計画の推進者だと思ったので最初に呼びましたが、彼に火星へ行きたいかと尋ねたら、「今の科学技術では行きたくない。地球永住計画に入れてほしい」と言っていました(笑)。今の技術の先に盲目的に希望があると信じて描いた火星の暮らしには命を預けられない。おそらく無事には帰れないし、子どももできなくなる。
他の実験参加者も非日常を求める気持ちや名誉欲が強く、本気で火星へ移住したいとは思っていないようです。そういう意味で、日常の暮らしの延長線上にある地球永住計画に入れてくださいって。
伊沢 実態を知っているからこそ、そういう結論になるんですね。
関野 そうすると、この地球をどうしたらいいかという話になるんです。
伊沢 関野さんの地球永住計画が目指されているものは、糞土思想と同じだと私は思います。ただ私の場合はウンコを中心に考えていて、今お聞きしたような宇宙全体を取り巻く問題は知らなかったのですが。これまでさまざまな分野で共生や循環の話はよく聞くけれど、命を自然に返すと言っている方はまだ知りません。
たとえば宗教なら、食べて命を奪っている人間は生きているだけで罪があると言われますが、だったら奪った命を返せばいいじゃないかと。そんな単純なことがなぜ今まで言われなかったのかが不思議なんです。
――ノグソで命を自然に返せることに、伊沢さんはなぜ気づくことができたのですか?
伊沢 菌類の働きを知ったからです。ウンコや死骸が腐って土に還ることが自然の循環だと知ったときに、ノグソは命を返すことだと気づきました。この地球上ではすごく簡単なことなんです。
関野 人間は自然を必要とするのに、自然は人間を必要としないということを、自覚しないといけないんじゃないかと思います。ヤノマミやマチゲンガのような生活に私たちはもう戻れないので、どうしたら近づけるか?
自然の循環の中に完璧に入るのは不可能かもしれないけれど、少しでも近づけるのが大事で。ノグソをして返すのは一つの方法だし、トイレをコンポスト型に改良して返すのも一つだと思う。