「生ききりたい」を読んで
伊沢 私は淳子さんの文章に衝撃を受けて、男の理屈ではなく女性の感覚という面からも、お話を聞きたいと思っています。今まさに死に向き合っている場合と、死を遠くに置いて考える場合では全然違いますよね。私も自分が舌ガンになって初めて真剣に死のことを考えました。
食べて生きることは他の生き物の命をどんどん奪うことだから、生きることと死ぬことと、同じくらい意味があると私は考えています。
淳子 伊沢さんの「しあわせな死」のイメージは何なんですか?
伊沢 まだ明確な形にはなっていないんですが、死を覚悟することで生きることを輝かせることかな。いかに本当の喜びを見出すか。つまらない欲得での喜びではなくて、そのプロセスで循環や共生があって、そこを満たしながら、死ぬ間際ににっこり笑って死ねるのが最高だと今は感じています。
淳子 私は、実際になってみても分からないことだらけなんですけど、でも今、死が確実に目の前にある。自分が元気なときは、どなたかが亡くなってもどこか他人事のようなところがあったけれど、今は確実に自分ごととしてせめぎ合う感じです。体も精神の状態も毎日違うし。
ただ思うのは、できるだけ丁寧に生きたいということなんです。なんか大それた、こういうことをしたいというのもないし。
伊沢 私も以前と今では違います。これまでは死を考えて、時間は有限なものだから早くここまでやらなくちゃとすごく焦っていた。もっと糞土思想を広めないと、弟子を作らないとって。ところが今は違うんです。
それってもしかしたら、淳子さんが「日々の生活を生きたい」と書かれていたのが刺激になったのかなと思うんです。何か目的をやり遂げることだけが人生なのではなく、1日1日が楽しくなければしょうがないのかなって。
淳子 伊沢さんは何年前に舌ガンがわかったんですか?
伊沢 2年前です。ずっと痛かったけど最初は口内炎だと思っていて、ガンだとは考えなかった。
淳子 思わないですよね。まさか自分がって、たぶん皆思いますよね。普段健康でエネルギッシュに生きている、病とは無縁のような人もなる。
伊沢 ガンってそうですよね。
淳子 私も全く思わなかったです。最初は胃が痛いなあぐらいに思っていて。高校教員の仕事が毎日忙しいので、ストレスかなと思って放っていました。ようやく町医者に行ったら、ストレス性の胃炎かもと言われて。
伊沢 胃が痛かったんですか?
淳子 はい。まさか腸だなんて思わなくて。私すごく快便だったんですよ。
伊沢 私は舌の裏から出血してきて、痛かったけど、だましだまし食べたりしゃべったりしていて。でもいよいよ講演会で話すのが厳しくなって病院へ行ったら、そこでガンだと言われました。
淳子 切るしかないねって?
伊沢 そうです、舌を半分ぐらい。でも舌がなくなったら講演ができなくなり、それは私にとって一番致命的なんです。そうしたら、糞土研究会でwebを担当してくれている前田さんがネットで色々調べて小線源治療というのを見つけてくれました。切らなくても良いというのでその治療に切り替えたんです。
具体的には病室に閉じこめられて1週間、舌に針を刺して放射線を当て続けるんですが、その間ノグソができなかったのが悔しかった。でもそれが効いて、今は定期検診で時々通院しているという状況です。