熊倉容子(元TOTO環境省職員)×伊沢正名(糞土師)
水洗トイレメーカーのTOTOに所属しながら、ウンコを自然に還す循環型トイレの必要性を説いてきた熊倉容子さん。今は環境省に移り、トイレという切り口から自然との共生を考え続けています。そんな熊倉さんと糞土師の伊沢さんは、もちろん意気投合。あるべきウンコの処理の仕方から次の世代の子どもたちへの教育までを、じっくりと話し合いました。
トイレは水洗だけじゃない
伊沢 熊倉さんは元TOTO社員なのに、水洗トイレに疑問を抱いていた、というのが面白いですよね。そもそも熊倉さんが考える循環型トイレとは、どんなものなんですか?
熊倉 一般的に、下水道が整備されている地域の水洗トイレは、汚水を各家庭から終末処理場に集め、きれいにしてから川に流すという仕組みです。それ以外の地域では、各家庭が設置した浄化槽で汚水をきれいにしてから流しています。
一方で循環型トイレとは、汚水をどこにも流さない自己完結型トイレのことです。つまり、し尿を処理する何らかの仕組みをもっていることになります。微生物の力でウンコを分解するバイオトイレなどが含まれますね。
水洗トイレは、都市部なら衛生面でのメリットはあります。ですがウンコを全部水に流してしまい、自然に還すことはできない。結局はウンコが大量の汚泥となり、最後は焼却処分されている現実があります。その点、バイオトイレなどの循環型トイレなら、ウンコを堆肥に変えて、自然に還すことができる。水の確保が難しく、汚水を流すことのできない山岳地でも使用されています。
伊沢 だけどTOTOなんて、水洗トイレの代表格みたいな会社ですよね。TOTOで働きながら、どうして循環型トイレについて考えはじめたんですか?
熊倉 まずトイレについて考えはじめたきっかけは、10、20代の頃、6年間にわたって日本全国放浪の旅をしていたこと。自宅のある千葉から岩手までの海岸線をひたすら歩いてみたり、全国の山々を縦走してみたり…。
伊沢 すごい体験をしていますね。
熊倉 いろいろ、自分の目で確かめたかったんです。山や海沿いを歩く時は、ずっとテント泊。つまり、トイレがない。ノグソするしかない環境で生活していたんですね。
今思い返すと、砂浜でウンコは分解できていたのかな、ってちょっと思いますが。
伊沢 大丈夫ですよ。私も沖縄の草1本ない海岸で、砂浜に穴を掘ってノグソして埋めておいたんです。翌朝そこへ行ってみたら、ノグソした砂の上に指の太さくらいの穴が開いていて、カニのご馳走になっていました(笑)。
熊倉 よかったです(笑)。砂浜のノグソならまだ良いんですが、登山客が多い山の中ではトイレがあっても水で流せるわけではないので、てんこ盛りになっていたりもします。そういう光景を見ているうちに、トイレの問題や自然の循環に向き合うようになりました。ちょうどそんなタイミングで伊沢さんに会ったんですよね。もう10年前くらいですね。
伊沢 五反舎という森林ボランティアの集まりでの講演会でした。山仕事中に役立つようにと、参加者全員で葉っぱノグソの野外実習講座もやって、あの時はものすごく盛り上がりましたね。帰りの電車の中で個人的に話ができて、熊倉さんは当時すでに、TOTOの社員として働いていましたね。
熊倉 伊沢さんの、「ウンコは自然に還して、他の生き物の役に立たせるべきだ」との言葉に、ハッとさせられました。
TOTOは、以前の暗いイメージのトイレを、衛生的で文化的な存在に変えてきた企業です。でも、だからこそ水洗トイレは、人間中心なんですよね。ウンコを自然の循環から切り離してしまう。伊沢さんとお話しして、これでは自分たちのウンコの責任を取っていないな、と考え始めました。