水洗トイレは、ウンコと自然を切り離す?

教育は希望だ

伊沢 結局TOTOでは循環型トイレの実現が難しく、熊倉さんは今は環境省で働いているんですよね。これからはどんなことに力を入れていくのですか?

熊倉 廃棄物の所管って、環境省なんですよね。環境省に入って、し尿だけでなく食品も含めてなるべくゴミを出さない、循環させる、ということについてさらに意識するようになりました。そして、環境教育も。先ほどの話とも通じるのですが、世の中の意識を変えることを考えると、力を入れたいのはやはり教育かなって。自分のし尿が自然にどう還っていくのかを含め、環境や循環をテーマに、これからの時代を担っていく子どもたちと一緒になって考えていきたい。

最近は自然教育や里山保育に力を入れている幼稚園や保育園もありますし、幼児教育を中心にまずは理解を得られるところから、伝えたいことを、子どもたちの体験を通して学んでもらう取り組みを始めていきたいですね。

伊沢 子どもは大人よりもずっと柔軟だからね。もちろん子どもだからって全員が受け入れてくれるわけじゃないけど、10%でも5%でも伝えられたら、それが自信になってきますよね。

熊倉 最近、魚を切り身でしか見たことのない子どもがいることを知ったんです。自然と切り離されたところで生活していて、身近な自然ですら知らない子どもがいるって、衝撃ですよね。私が今日着ているのは、鮭の皮で作ったベストですが、こんなふうに、今だと当たり前のように捨てられしまう鮭の皮で服や靴を作ったりと・・・。何でも使えるものは使っていた時代があった。ウンコだってそう、少し前まで畑の肥やしにしていた時代があったんです。

鮭の皮でできたベスト。

今の教育で伝えられない、生きていくうえで大切なことは、周りの教えられる大人がしっかり教えていかないといけない。子どもの柔軟さがあれば、体験を交えて楽しみながら教えれば、ちゃんと理解してくれると思うんです。教科書を丸暗記すれば良いという教育は、これから変わっていくはず。これまでの教育では学べないようなことを、ぜひ伊沢さんからも子どもたちに伝えてほしいですね。

伊沢 教育は本当に希望だな、と思います。今年出版した『ウンコロジー入門』は、学校教育の中で教科書代わりに子どもにも読んでほしいと思って執筆しました。ですがその冒頭では、ちょっと難しい植物の光合成の化学式を載せたんです。

子どもに読ませたいなら、化学式なんて難しいのは載せない方が良いという人もいます。でも実は光合成って、命の根源なんです。光合成で作られる糖類(有機物)が、動物にとってのご馳走。そして光合成の残りカスとして捨てられる植物のウンコが、すべての生き物の生命活動に欠かせない酸素です。そのことを知れば、たとえ道端の雑草でさえ私たちを生かしてくれているんだという、命の大本が理解できるはずです。

熊倉 素晴らしいですね、ぜひそれは子どもに読んでほしいです。私たち二人とも最終的に教育に行き着いているというのも、面白いですね。全国放浪からTOTOに入り、環境省と移る中で色々やってきましたが、自分が本当にやりたいことが選別できてきた気がするんです。それがやっぱり、子どもたちに何が残せるか、というところ。伝えたいことは子どもに体験してもらうのがポイントですね。

伊沢 本当にそこに行き着きますよね。教えること自体もすごく学びになる。

熊倉 私自身も、伊沢さんからたくさんの刺激や学びをもらってきました。伊沢さんの糞土思想を私なりに解釈して、自分の活動に落とし込んできた面もあります。私はとにかく、なんでも「まずはやってみる」が重要だと思っています。

伊沢さんという過激な人との出会いをきっかけに、伊沢さんの周りの人がどんなふうに影響を受け、どう活動しているのか知るのも楽しいですよね。伊沢さんに影響を受けた人で集まって、報告会をやってみたら面白そう。

伊沢 ウンコサミットですね(笑)。それはぜひやってみたいです。今日は本当にありがとうございました。

(写真・構成/大西夏奈子、編集/金井明日香)