TOTO社長に直談判
伊沢 でも水洗トイレメーカーのTOTOでその志を貫くのは、大変だったんじゃないですか?
熊倉 はい、そうなんです。でも私はTOTOのようなトイレのパイオニア企業こそ、未来のトイレのことを率先して考えるべきだと思っていました。そこでTOTO社員の時に、当時の社長に直接メールをしてみました。個人的に意見したいことがあれば、社長にダイレクトに伝えられるシステムがあって。2010年のことです。
伊沢 良いシステムですね。どんな内容を送ったんですか?
熊倉 「流して終わり」ではなく、その先のことも考える企業にしていきませんか、と提案しました。今の水洗トイレの仕組みが、人間を自然の循環から断ち切ってしまっていることを指摘しました。
でも昔のように、し尿を無駄なく資源として使う暮らしに戻るのは難しいし、不衛生なトイレに戻したいわけでもない。そこで、きれいで衛生的でありながら、し尿を資源として活かせるトイレこそ、次にTOTOが目指すべき次世代トイレなのではないか、と。長期的に見れば、それがTOTOのブランドにも貢献するのではないか、と提案したのです。
伊沢 社長の反応は、どうでしたか?
熊倉 結論から言うと、「まだ時期尚早である」との否定的なお返事でした。でも当時の社長の張本さんは、長文の丁寧な返信をくださいました。社長自身も、子供時代にし尿を堆肥にして活用する暮らしを見てきたから、その大切さはわかる。でも社長として、社員に給料を払わなければいけない立場として、今はその優先順位を上げることはできない、と言われてしまったんですね。
伊沢 企業活動とか経済という尺度で測ると、残念ながら受け入れられない提案だったんですね。