生活があることが大切
伊沢 長生きしても、その時間で何をするのか? 今、淳子さんは生ききるというところで、何を一番の生きがいにしていますか。
淳子 さっきも言ったのですが、男の人ってけっこう生きる目標を持たないといけないと考えますよね。知人が私に「あなたの目標は何だ」と聞いてきたように。
伊沢 理屈ですから(笑)。
淳子 私は生徒に、たとえ受験勉強だったとしても、文章で自分の考えを伝えるためにこういうふうに組み立てて、ということを教えるのが好きだったんです。その子が受験に通って「先生ありがとう」と言ってもらうことがすごく喜びだったんですね。
学校組織にある、勝ち続けなくちゃいけないとか、社会に貢献できる人だけが素晴らしいという考え方とはちょっと違っていて、そういうのは別にいいんじゃないって思っちゃって。
伊沢 もし私が淳子先生に教わってたら、高校中退しなかったかも……。
淳子 仕事には自分なりの喜びがあったから、ずっと続けられていたんです。だからその知人には、「もう1回仕事に戻って、子どもたちに教えられるところまで回復するのが目標です」と伝えました。そうしたら彼が「素晴らしい!」と喜んでくれて。
でもそれは私の中では建前。もちろんそうなればすごく嬉しいけど、それを目標にしているわけではないというか。なんだろう……。
今現在でいうと、正直にいえば、毎日新しい朝が来て、食事ができて、暮らしがあって生活があることのほうが今は大切なんです。
伊沢 それでいったら、回復するために食事を制限するよりは、むしろ美味しいものを食べたいっていうほうが大事だっていうことですよね。
淳子 そうですね。好き好んで悪いものを食べようとは思わないけども。今一番辛いのは、3日間胸に針を刺し続ける抗ガン剤治療が2週間に1回来ること。だからいつも、ああどうしようかなって思っている。
亮之介 どうしようかなってどういう意味?
淳子 いつやめようかなって。
亮之介 ああー。
淳子 いつやめようか、なかなか決断がつかないのが辛い。
伊沢 でもそれをやめたら、死が近づくというのが見えているんですか?
淳子 と、医者からは言われています。抗ガン剤をすると骨髄抑制といって、白血球の数が減ったり血液の状態がすごく悪くなって、治療がもう続けられないということがあったんです。
1ヶ月ぐらいやめていたんですが、その間ウンコの状態がすごく良くなったんです。ただ、1ヶ月抗ガン剤も飲み薬もしなかった後に検査をすると、腫瘍マーカーが上がっていたりする。
伊沢 どっちを取るかみたいになるんですね。
淳子 そうそう。抗ガン剤をしないとガンが少し大きくなっていて、そういうのを突きつけられてしまうので、板挟みっていう感じですかね。