湯澤規子(法政大学教授)×伊沢正名(糞土師)
ウンコ柄のTシャツに、大きなウンコのピアス。そんないでたちで現れたのは、なんと法政大学人間環境学部教授の湯澤規子さん。ウンコが歴史の中でどんな役割を果たしてきたのか、ウンコと人間の関わりを研究しています。
今年1月に江戸川区こども未来館で行われた「とことんマジメにうんち学」で、小学生に向けて講義をした湯澤さんと伊沢さん。「ウンコには値段がついていた?」「食べるのとウンコするの、どっちが大事?」など、大盛り上がりの講義になりました。
SDGs、丸っきり信じて大丈夫?
伊沢 今日は、「とことんマジメにうんち学」にお呼びいただき、ありがとうございました。湯澤さんのウンコTシャツ、いいですねえ!
湯澤 ありがとうございます。耳につけているウンコピアスは、手作りなんですよ。私はとにかく「研究対象を愛したい」と思っていて、その愛を伝えるためにウンコグッズを身につけています。学生たちにも、研究するものをとことん好きになってみようと、いつも伝えています。
伊沢 今日の講義では、前半は湯澤さんからウンコと人間の歴史を話していただき、後半は私から野糞の実践編のお話をしました。
印象的だったのは、子どもたちの素直な反応ですね。最初はみんな「ウンコなんて汚い!」と言っていたのに、トイレに流されたウンコは自然の中で活かされずに、燃やされて灰にされてコンクリートに固められていると聞いたら、「かわいそう」と意見が変わっていたのが興味深かったです。
湯澤 本当にそうですね。私は普段は大学生に向けて講義をしていますが、大学生にもなると既に人生観や固定観念が固まっている場合も多いんです。本来は様々な見方ができるものに対しても、「こういうものだ」と決めつけてしまっている部分がある。
たとえばSDGsの6番目は、「安全な水とトイレを世界中に」「2030年までに野外排泄をゼロに」と掲げられています。一般的には「SDGsは目指すべきものだ」と問答無用に考えられていますが、実はこの6番目の項目に、私は疑問を持っているんです。
もちろん、不衛生なトイレによって病気が蔓延する、といった状況は改善されるべきです。ですが一人ひとりの生き方は異なるのだから、ウンコとの向き合い方も多様でいいはず。それなのに、野糞は絶対にダメなの?と。
伊沢 私も同感です。この6番目の項目は、完全に近代西洋文明的目線からの目標で、トイレに流された後のウンコのことだけでなく、そもそも自然との共生も循環も考慮されていませんよね。それで持続可能なんて言えるんでしょうか。
湯澤 たった一つのスタンダードを、みんなで目指していこうよというのがSDGsですからね。学校で先生から「休み時間しかトイレに行っちゃいけません」と言われる窮屈さに、ちょっと似ている気もします。
それで言うと、先ほどの講義で伊沢さんが子どもたちに問いかけた、「食べることと、ウンコをすること、どっちの方が大事?」という問いかけも、とても興味深かったです。
伊沢 そう、私はウンコを出すことの方が、圧倒的に大事だと思っているんです。たとえば、災害があって避難所にたどり着いても、断水でトイレが使えなかったとする。その状況で、食料が配布されたところで、食べられますか?と。
現に2016年の熊本地震の避難生活では、トイレが使えないことで飲食を控え、エコノミークラス症候群(注)で亡くなった方も大勢いるんです。
だからこそ私は、災害対策という意味でも、野糞を広めたいと考えています。こういった現実を知っているか知らないかで、ずいぶん世の中が変わって見えますよね。
注:水分不足により血栓ができやすくなり、エコノミークラス症候群にかかりやすくなる。